図説:東北の稲作と冷害
品種解説:「ふくひびき」
本品種の耐冷性は「アキヒカリ」「トヨニシキ」と同程度の“やや弱”である。名前の意味は、“普及地帯福島県と片親「コチヒビキ」の名にちなみ、かつ農村に福を響かせたいとの願いを込めていること”を表現する。
品種解説:「ふくひびき」
1.来歴の概要
草姿がよく、やや大粒で登熟性が優れている「コチヒビキ」を母とし、極強稈、良型、大穂で籾数が多いが、小粒で登熟性のやや劣る「奥羽316号」を父として、1982年に東北農業試験場で交配された。1988年に「奥羽331号」の系統名が付けられ、1993年に水稲農林320号として登録された。
2.形態的特性
・ 稈 長:「アキヒカリ」並みかそれよりやや短い“短稈”である。
・ 穂 長:「アキヒカリ」よりやや長く、「トヨニシキ」並みである。
・ 穂 数:「アキヒカリ」より少ない“穂重型”である。
・ 粒 大:「アキヒカリ」「トヨニシキ」よりやや大きい。
・ 千粒重:「アキヒカリ」「トヨニシキ」よりやや大きい(下図参照)。
3.生態的特性
・ 出穂期・成熟期:「アキヒカリ」と「トヨニシキ」の中間で、育成地では「トヨニシキ」並みの“中生”である。
・ 収量性:ごく高く、「アキヒカリ」より数%〜10%、「あきたこまち」より20%程度多収である(上図参照)。
・ 耐倒伏性:「アキヒカリ」並みかやや強い。
・ 葉いもち抵抗性:「ハマアサヒ」より明らかに強く、「トヨニシキ」よりは劣るが、「キヨニシキ」並みである。
・ 穂いもち抵抗性:「ハマアサヒ」や「ササニシキ」より明らかに強く、「キヨニシキ」並みかやや強い。
・ 耐冷性:「アキヒカリ」「トヨニシキ」と同程度である。
・ 穂発芽性:「アキヒカリ」「トヨニシキ」並みである。
特 性 | ふくひびき | アキヒカリ | トヨニシキ | あきたこまち |
耐冷性 | やや弱 | やや弱 | やや弱 | やや強 |
耐倒伏性 | 強 | やや強 | やや強 | やや弱 |
葉いもち抵抗性 | やや強 | やや強 | 強 | 中 |
穂いもち抵抗性 | 中 | やや強 | 強 | やや弱 |
穂発芽性 | やや易 | やや易 | やや易 | 難 |
4.品質・食味特性
・ 玄米の外観品質は粒揃いがよく、腹白の発生も比較的少ないが、乳白、心白がやや目立つ。色沢はやや濃く、光沢が劣るため外観品質は「アキヒカリ」並みである。
・ 食味は「あきたこまち」「ひとめぼれ」「チヨニシキ」よりは劣るが、「アキヒカリ」「トヨニシキ」に比べても同程度かやや高い。
・ タンパク質含量は比較したこれら品種と同程度かやや低い。
5.適地等
・ 東北中南部および北陸、東海地方の平坦地に適する。
6.栽培上の注意
・ 耐冷性がやや弱いので冷害の発生しやすい地帯での栽培は避ける。
・ いもち病抵抗性遺伝子をもち、一般のレースには侵されないが、真性抵抗性の崩壊は予想され、また圃場抵抗性は中〜やや強であるので、発病をみたら一般品種と同様の防除が必要である。
・ 酒造用掛米を生産する場合は、米のタンパク質含量を高めないため、極端な多肥栽培を避けるほか、実肥の施用を控える。
<参考資料>
農林水産省農林水産技術会議事務局(平成5年7月):平成5年農林水産省育成農作物新品種(夏作物・園芸作物)。
reigai@ml.affrc.go.jp