図説:東北の稲作と冷害

斑点米カメムシの発生動向とその対策


地域別の斑点米カメムシの種類と畦畔雑草対策および水田における防除について紹介する。

斑点米カメムシの発生動向とその対策

文責:伊藤一幸

 斑点米カメムシは近年全国各地で問題となっています。暖冬で夏季も高温の年に発生が目立つようです。水田,畦畔,休耕田,畑地などに生育するスズメノカタビラ,メヒシバ,ノビエ,エノコログサなどの一年生イネ科雑草,水田酪農の採草地(主としてイタリアンライグラス)が発生の温床となっています(後藤2001)。
 全国的な斑点米問題は1970年代にもあり、今回はそれ以来2度目です。基本的には前回と問題点は何ら変わっていません。異なる点としては,今回はカメムシの種類が変わってきた県があることでしょうか(カスミカメムシ類が重要だとする県が増加、クモヘリカメムシが重要だとする県が北上)。

斑点米の例
図 斑点米の例

 山林の下草などの中で越冬したカメムシの成虫あるいはイネ科雑草の茎中に生みこまれた越冬卵からふ化し発育した成虫は6〜7月に一年生のイネ科雑草の穂上で吸汁し,産卵します。この時期に強い雨がないと発生が増えるようです(新山2000)。また,水稲の出穂時期が例年より早まると斑点米の被害が増える傾向が見られています(田中ら2000)。成虫が出穂後の水田に移動しイネ籾を吸汁します。
地域により発生しているカメムシの種類は異なります。自分の田んぼでは何が問題かをまず突き止めましょう。各県の病害虫防除所に問い合わせれば分かると思います。青森から日本海側はアカヒゲホソミドリカスミカメとオオトゲシラホシカメムシ,太平洋側は主としてアカスジカスミカメの発生が多いようです(新山2000, 後藤2001)。
アカスジカスミカメ アカスジカスミカメ
図 アカスジカスミカメ
アカヒゲホソミドリカスミカメ アカヒゲホソミドリカスミカメ
図 アカヒゲホソミドリカスミカメ
オオトゲシラホシカメムシ オオトゲシラホシカメムシ
図 オオトゲシラホシカメムシ
 水稲の出穂10日前までに畦畔や休耕田など水田周辺部の草刈りを終える必要があります。イネ科専用の除草剤(ナブなど),抑草剤の利用が有効と考えられます。ただし,出穂直後の草刈りや薬剤の散布時期を間違うと強制的にイネへ追いやることになり,かえって被害が大きくなってしまいます。
 究極的には一年生のイネ科雑草が生えないような管理が求められます。畦畔ならばシバやチガヤを主体とした草丈の低い多年生型の群落の育成,休耕田は頻繁な耕耘が必要となります。北海道では非イネ科植物ミントなどハーブを利用した畦畔のカメムシ防除効果が高いという農家もあります。
 水田内のカメムシ防除の方法はカメムシの種類により,広域で防除した方がいいものと水田周辺部を防除するだけでも効果があるもの(オオトゲシラホシカメムシなど歩行移動性カメムシ)とがあります。また,殺虫剤の残効は短く,いもち病とカメムシの同時防除ではカメムシには早すぎますので,それぞれ独立した防除が好ましいと思います。
写真提供 菊地淳志(きくち・あつし)氏

東北地域における研究動向
現在,東北地域では[斑点米カメムシ類研究会]を設けています。これは各県・独法研究機関の連携・協力を密にし,東北地域での斑点米カメムシ類問題の解決に資することを目的としています。具体的には@情報交換,A問題点の整理,B連携研究の実施等です。
まだまだ研究が不足しているため,この研究展開を水田利用部の菊池淳志病虫害研究室長は以下のように考えています。

  発生生態の解明
     水田への移動要因の解明
     発生源での増殖の解明(主要発生源の特定)等
     発生変動の把握
  防除法の確立(直接の防除とは限らない)
     1.カメムシの発生予察法の確立
     2.薬剤防除の効率化や要防除水準の策定(+簡便なトラップ開発)
     3.カメムシ発生源における密度抑制法の開発
       1)カメムシ防除上有効な畦畔管理法の開発
         (被覆植物,抑草剤,除草剤,機械除草)
       2)休耕田等におけるカメムシ密度抑制法の開発
     4.耐カメムシ性のあるイネ栽培法の開発(割れ籾防止等)
     5.生物的防除法の開発(有効な天敵の探索と利用技術の開発)
     6.耐虫性品種の開発


引 用 文 献
新山徳光2000.特集:1999年の斑点米カメムシ類の多発生(1)アカヒゲホソミドリカスミカメ.植物防疫54(8), 309-312. 
田中英樹・高田真・千葉武勝2000.岩手県における斑点米の発生予察法の検討.北日本病虫研報.51, 170-174.
後藤純子2001.特集:斑点米カメムシ類の発生と防除対策,岩手県におけるアカスジカスミカメの発生状況.植物防疫55(10), 447-450.


 
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