図説:東北の稲作と冷害
東北地方の温暖化と変動の大きな気象の実態
東北地方の年平均気温の推移などから温暖化の実態と気象変動が最近大きいことを気象庁の貴重な観測データで概説する。
東北地方の温暖化と変動の大きな気象の実態
1999年の夏は、仙台管区気象台によると、@年間を通して高温傾向、A盛夏期の猛暑と厳しい残暑、B夏から秋にかけて記録的な大雨多発に特徴づけらます。特に、Aの盛夏期の猛暑と厳しい残暑は水稲の登熟期の高温障害とカメムシ類の被害の誘因となり、稲作に大きな打撃を与えました。これに近いことは1994年にも経験しました。
さて、地球の温暖化の問題が昨今の話題となっています。東北地方もその例外ではないことを気象庁の長年の観測による貴重なデータでみてみることにします。図1は1946年〜1999年までの54年間について年平均気温偏差を年を追って示したものです。すなわち、1961年〜1990年までの30年間の平年値をゼロとして、各年の平均気温をこの平年値と比較したものです。プラス側に棒線がある年は平年値より高かったことを、マイナス側にある年は同じく低かったことを示します。折れ線は5年間の移動平均値であり、大まかな変動の傾向を読みとることができます。また直線は長い期間の平均的な気温上昇の傾向をみるために引かれたものです。
図1 東北地方の年平均気温偏差時系列(1946〜1999年)
出典:仙台管区気象台発表(平成12年1月5日)『1999年の東北地方の天候(速報)』
この図によると、年々の変動はあるものの、長期的にみて気温の上昇傾向がみられます。またこの長期的昇温傾向の中に、気温の低い時期と高い時期が、十数年程度の周期で繰り返されていることも移動平均の動きから読みとれます。さらには1980年代末を境にして、偏差に大きな変化がみられます。そして、1990年代はこのような長期変動により気温の高い時期にあたり、近年は高温になりやすい状態にあると考えられています。
東北地方の1999年の年平均気温偏差は+1.2℃で、1946年以来の54年間で1990年に次いで2位の記録でありました。また1994年のそれは+1.1℃でした。
なお、こうした気温変動の原因は、人間活動の拡大に伴う人為的要因と大気や海洋がもともと持っている性質の自然的要因が考えられていますが、変動のメカニズムについては十分に解明されていません。
上の図1は年間を通してみたものですが、稲作に重要な夏(6月〜8月)の気温については、次の図2から最近如何に変動が大きいかを見ることにします。図1と同様に、平均気温の平年値と各年次の平均気温を比較したものです。これによると、夏の平均気温は、1950年代後半から70年代前半は年々の変動が相対的に小さいといえますが、70年代後半からは変動が比較的大きくなってきています。1990年代に入っても、1993年の記録的な冷夏、94年の暑夏と極端な天候が現れており、1999年も梅雨期にオホーツク海高気圧は現れても一時的で晴れる日が多く、梅雨明け後は太平洋高気圧が平年より北に偏って張り出したため、東北地方は記録的な暑夏となりました。
図2 東北地方の夏(6〜8月)の平均気温平年差の推移
(棒グラフ:平均気温平年差 太線:5年移動平均値 細線:-0.5℃≦平年並の範囲≦0.3℃)
出典:仙台管区気象台発表(平成12年3月13日)『東北地方暖候期予報の解説』
次の図3は平沼洋司(2000)『ヤマセが社会・経済活動に及ぼす影響』気候影響・利用研究会会報17号51頁にある図から作成したものです。東北と関東地方を対象にして、夏を冷夏、並夏、暑夏に分類して、1960〜79年の20年間と1980〜99年の20年間でそれぞれの頻度を求めて作図したものです。
この図からは次のことが良く理解できます。
1.1960〜79年の20年間をみると、東北と関東の両地方において並夏が最も頻度高く、冷夏や暑夏はそれぞれ頻度が少ないこと。すなわち、平年値を中心に多少変動していることを示します。
2.1980〜99年の20年間をみると、東北と関東の両地方において並夏の頻度が減少し、冷夏と暑夏の頻度が増えること。そして冷夏の頻度は東北で多く、暑夏の頻度は関東で多くなっていること。すなわち、両極が頻度高く出現しており、平年値を中心として変動とは異なるパターンが現れやすい。
以上のように、東北地方においては温暖化の傾向は明らかにみられるものの、年々の変動が大きく、冷夏や暑夏が訪れる頻度が高いので、いずれのタイプの夏にも対応できるような稲作技術体系を早急に確立する必要があるといえます。
reigai@ml.affrc.go.jp