気象被害監視のポイント

分げつ期低温障害の問題構造


活着とその後の初期生育の促進は寒冷地や山間高冷地など生育期間の短い地域では重要な点である。低温障害をどのようにして回避するか。低温による被害は他の生育ステージに比較して軽微な時期ではあるが、被害を回避するための基本技術、生育調整技術ならびに警戒すべき気温指標を概説する。

 一般に分げつ期における稲の草丈や茎数などの形態的な変化がそのまま収量の多少に影響する程度は低いといわれる。分げつ期の環境や栄養条件の良否によって最も影響を受けやすい穂数でさえ、その多少と収量との間には一定の関係がみられない場合が多い。しかし、分げつ初期の茎数の多少はかなり収量に関係し、とくに低温地や生育日数の短い条件下(早生品種、晩植)などでは両者の関係は密接である。
 まず、低温が被害歩合に及ぼす程度を生育時期別に比較した図1をみる。これは『夏作減収推定尺度−冷害(1)』にあるものである。それぞれの生育時期は次のように定義されている。分げつ期は6月上旬〜7月中旬、幼穂形成期初期は出穂期前30〜25日、幼穂形成期中期は出穂期前25〜15日、穂ばらみ期前期は出穂期前15〜10日、穂ばらみ期中期は出穂期前10〜5日、穂ばらみ期後期は出穂期前5〜0日、出穂開花期は出穂期後0〜5日、登熟初期は出穂期後5〜10日、登熟中期は出穂期後10〜25日、登熟後期は9月上旬〜10月上旬。
生育時期における冷害被害歩合
 上の図によると、平均気温が約17℃の低温が7日間継続した場合における生育時期別の被害歩合をみると、登熟後期はほとんど影響がなく、分げつ期は10%と推定される。被害歩合が最も高いのは穂ばらみ期前期で55%となっている。次で幼穂形成中期、穂ばらみ期中期と出穂開花期はそれぞれ40%である。このように、分げつ期の低温は穂が形成される過程よりは低温による被害の程度が低い。その理由について、次に説明する。
 一般に茎数と収量との間には直接的な関係がみられない場合が多いが、その理由を図2を参考に考える。茎数と穂数との関係は最高分げつ期頃にならないと密接とはならない。最高分げつ期の茎数が多く、最終的に穂数が増大しても、1穂頴花数が減少しやすいためである。また1穂頴花数が減少しない条件が与えられても、登熟歩合が低下しやすいような関係が収量構成要素相互にみられるためである。
分げつ数の多少が収量に結びつかない理由
 さて、分げつ期における低温障害の発現に関する問題構造を図3に示す。ここでは最も大きな影響を及ぼす要素のみ掲げた。天候が良好ならば、水温、地温が高まり、葉や根の生長や土壌窒素の発現が旺盛となり、窒素やリン酸などの栄養分が吸収され、分げつが順調に形成される。それにより光合成の場である葉の面積が増大し、光合成量と生成される炭水化物量も多くなり、それが葉や根の生長に振り分けられる。しかし、低日射と低温が同時に発生すると、この一連の流れが阻害され、生育進度や草丈や分げつ数などの生育量が低下することになる。この点は容易に理解されよう。
分げつ期低温障害の問題構造−監視のポイント−
 この低温の影響を軽減するための基本技術としては、図にあるように、1.健苗植え付け、2.早植え、3.栽植密度、4.田植え後の活着促進などが挙げられる。この時期の生育診断上は次のような点がポイントとなる。
  1. 出葉速度の遅速と分げつ増加の遅速、そして最高分げつ期の早晩
  2. 有効分げつ終止期はいつか。
  3. 強勢な分げつが確保されたか。
 いずれも有効穂数をどのように確保するか、頴花数の多い穂をいかに揃えるかが重要なことになる。
 初期生育を促進する対策は、先の基本技術の他に、なるべく浅水で管理し、特に昼間の水温を高くする水管理を行うことが重要となる。一方、茎数は多いが、各分げつはいずれも弱小で無効分げつが多いとみられた場合は、基肥窒素を減らしたり、中間追肥を控えるなどの他に、中干しが利用される。これらは、いわば生育調節技術といえる。ただし、基肥窒素の調節は事前に対応。これらの中で、中干しは有効分げつ終止期をすぎた段階で直ちに行うのがよく、時期が幼穂形成期にかかると被害が現れるといわれる。
 最後に、早期警戒システムにおける監視のポイントを整理する。図3における葉や根の生長、窒素やリン酸の吸収、分げつ形成の最低平均気温を各種文献から妥当な値を次のように設定した。
  1. 出葉(葉の分化と伸長)の限界平均気温:10℃
  2. 根の生長の限界平均気温:13℃
  3. 草丈の伸長の限界平均気温:13℃
  4. 分げつ形成の限界平均気温:15℃
 これらを参考にして、分げつ期の警戒メッシュ図を次のように設定する。
  1. 13℃未満の地域(赤):草丈・根の生育が停止し、生育遅延が生じる。
  2. 13℃〜15℃の地域(黄):分げつ形成が停止し、有効分げつ確保が遅れる。
  3. 15℃〜17℃の地域(青):17℃以上の地域に比較して生育が緩慢となる。
  4. 17℃以上の地域(緑):順調な生育が期待できる。
 なお、分げつ期の初期と後期とでは、限界温度も異なりことが予想されるが、穂首分化期前頃までは上の指標を用いて監視してみたく考えます。

 
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