気象被害監視のポイント

活着期低温障害の問題構造


活着の遅速が分げつの発生の時期と密接に関係するため、茎数や穂数の早期確保、さらに出穂遅延回避の面から重要なことは容易に理解できる。田植え期間中に低温が来た場合、どのような障害が生じるのか。またそれを回避するための深水管理の意義を概説する。

 活着遅延を引き起こす低温障害に関係する気象、苗質や施肥の投入技術、水田水温と地温、稲の生理的機能の主な要素を選び、それらの関連性を模式的に図1に示した。矢印は影響の及ぶ方向を明示している。その効果が抑制的に働く場合もあれば、促進的に働く場合もある。たとえば、低日射、低気温、強風が来た場合、水温・地温が低下し、それが新葉や新根の生長を抑制し、吸水や光合成機能の低下につながるというように図を見ていただきたい。
活着期低温障害の問題構造−監視のポイント−
 さて、矢印が多くて、複雑なように見えるが、大まかに整理すると次の点に特徴が見いだせる。
  1. 気象、苗質と施肥の要素は、この系では外部から影響を及ぼすものであること。
  2. 気象要素に大きく影響されるものは、水温・地温、光合成と蒸散作用であること。
  3. 水温・地温は根や葉の生長に影響し、それにより吸水や窒素・リン酸の吸収に影響し、それらが光合成などの稲の生理的な機能に影響を及ぼす。その結果はさらに根や葉の生長に反映されることになる。
 田植え時あるいは田植え直後に低温に遭遇した場合における障害監視のポイントを考えてみる(図1参照)。投入技術として、貯蔵養分を充分もった苗質の確保(健苗の育成)と施肥(基肥、移植直前の苗箱施用、側状施肥など)はいわば基本技術に位置づけられる。活着期の障害で怖いのは、低温もさることながら、強風を伴う場合である。強制的な蒸散による吸水とのバランスが崩れ、葉が黄化・萎凋して、ひどい場合には苗が枯死する。これを防ぐ応急技術が深水管理である。空気に曝される葉の面積を少なくして、蒸散面積を減じて被害を軽減する水管理である。さらに昼間止水・夜間灌漑の水管理技術を組み合わせることで、水温・地温を高く維持して、新根の生長抑制をできるだけ軽減することも重要である。
 次に、水稲各器官の生長の限界温度を整理してみたい。多数の文献などを参考にすると、大まかに次のように整理できる。
  1. 生長点における葉の分化(葉数の増加)に関する限界温度:9℃
  2. 根の生長(伸長)に関する限界温度:12℃
  3. 根・茎葉とも急速な生長を示す下限温度:15℃
 この限界温度は水温に当てはめられるものである。平均水温と平均気温の関係を示す各種データの経験値からみると、平均水温は平均気温よりも3〜4℃高いことが知られている。
 早期警戒システムの監視には、立地や栽培管理の異なる水田の個々に適用する基準ではなく、全体を概観するような基準を用いている。そこで、限界温度に平均水温と平均気温の差の3℃を差し引いて、活着期の警戒メッシュには次の基準平均気温を設定して警戒することにする。なお、実況平均気温は過去7日間の移動平均値です。

基準気温障害の程度
9℃以下生育が著しく抑制される。
12℃以下生育の遅れが懸念される。(稚苗移植可能気温と同じ)
15℃以下活着は普通に進む。
15℃以上活着とその後の生育は急速に進む。

 以上のように設定して、本年から監視に利用し、その適用性を検討してみたく思います。
 
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