確率予報の利用法

冷害危険度を考慮した1か月予報の利用法


    紹介にあたり
  1. はじめに<PDF版>
  2. 水稲と気象<PDF版>
  3. 冷害危険度を考慮した1か月予報の利用法・<PDF版>
  4. 3か月平均気温の確率予報を用いた作付品種の栽培管理への利用法<PDF版>
  5. まとめと課題<PDF版>
3 冷害危険度を考慮した1か月確率予報の利用法
3.1 1か月予報における確率予報(平均気温)の精度
 図3-4は、仙台管区気象台が1996年9月1日から1999年8月31日までに発表した1か月予報の向こう1か月の平均気温について、横軸に予報した確率、縦軸に予報した階級が出現した比率を示したもので、グラフ中の数字は発表回数を示している。
 発表回数の少ない60%などを除いて棒グラフはほぼ対角線上にのっている。このことは、予報した階級が、予報した確率におおむね対応して出現していることを示している。
 たとえば、確率50%という予報は延べ118回発表されており、それに対する予報した階級の出現率は45%、確率20%という予報は延べ112回発表されており、それに対する予報した階級の出現率は16%となっている。このように、確率は予報した階級のおおよその出現率と考えることができる。
1か月予報における気温確率の出現率
図3-4 1か月予報における気温確率の出現率
 縦軸は予報した気温階級が出現した比率(%)、横軸は予報した気温確率(%)、グラフ中の数字は発表回数を示す。
 

3.2 確率予報を利用したコスト/ロスモデル
1) 設定条件
 1か月予報の向こう1か月の平均気温の確率予報を、主に農家が冷害による減収を軽減させるための対策に利用する場合を考える。
 対象農家は、先に策定した8つの冷害危険度地帯区分にそれぞれ属する農家とする。水稲作付面積は1haとし、収入は地帯平均収量(kg/10a)と政府買入価格16,000円/60kgから算出する。なお、平成10年産米穀の政府買入価格は、米価審議会の審議を経て、現行16,217円から改定後15,805円(水稲うるち玄米、1〜5類1・2等平均包装費込み、生産者手取予定価格60kg当たり)に決定されている(食糧庁の米価審議会「10年産米の政府買入価格・米穀の標準売渡価格」より)。
 冷害等による被害額は、1972年〜1998年までの収量変動を考慮して設定する。図3-5は東北農業試験場による冷害危険度地帯区分の地帯1における収量推移だが、この期間においては年次に伴う収量の著しい増加は認められない。他の地帯も同様(図略)で、冷害等による被害量は収量の標準偏差を指標とする。
図3-5 冷害危険度地帯区分別の収量推移(東北農業試験場による)
 冷害危険度地帯区分の地帯1における収量推移で、縦軸は10a当たりの地帯平均収量、横軸は年次を示す。
 
 このような設定条件のもと、冷害等による被害の大きさを以下の3通り想定する。

被害1:地帯によっては1980年や93年は収穫皆無に近い被害を被っている。これら異常な減収(標準偏差の2倍をはるかに超える)を除いて、地帯別平均収量と標準偏差を求める。この場合は、標準偏差を被害量とみなす。

被害2:上の異常値を含めて地帯別平均収量と標準偏差を求める。この場合は、標準偏差を被害量とみなす。

被害3:特異な例として、1993年の大冷害を想定する。被害1の地帯別平均収量から1993年の地帯別平均収量を差し引いたものを被害量とみなす。

 冷害危険度地帯区分毎の各被害における収量及び被害量は表3-1のようになる。

表3-1 冷害危険度地帯区分毎の各被害における収量及び標準偏差  単位(kg/10a)
地帯区分被害1被害2被害3
収量被害量収量被害量1993年被害量
14625845374238
25995458878300
3545375424196
452762494132475
5594345943463
640269377112354
75114950073283
843088398141429

 これによる冷害危険度地帯区分毎の農家の収入及び被害金額は表3-2のように推定される。なお、収入は被害1の地帯別平均収量で算出した。

表3-2 冷害危険度地帯区分毎の農家の収入及び各被害における被害額  単位(万円)
地帯区分収入被害1被害2被害3被害1の除外年
112315.519.763.51993年
216014.420.880.01993年
31459.910.925.61993年
414116.535.2126.71980、1993年
51589.19.116.8
610718.429.994.41980、1993年
713613.119.575.51993年
811523.537.6114.41980、1993年

 深水管理を実施することに伴うコストは圃場などの整備状況で大きく異なるが、ここでは畦畔補修と管理、水管理、調整などに5万円/haを要すると仮定する。なお、農家の試算によるコストは、1万〜11万円程度/haとバラツキがあり、パイプラインが整備されている農家は深水管理をするための経費を少なく見積もり、深水管理に必要な畦畔やパイプラインの未整備の圃場を有する農家は経費を多く見積もる傾向がある。

2) 解析手法
 2階級の確率予報の基本的な利用モデルにコスト/ロスモデル(Cost-Loss Model)がある。ここで、コスト(C)は、ある望ましくない天候(ここでは仮に「気温が低い」とする)が予想されるときに対策をとるために必要な費用であり、ロス(L)は、その対策によって軽減できる損失額(=対策をとらないことによって生じる損失額)である。コストとロスの比(= C/L)は利用者によって異なるが、一般に0〜1の間の値をとると考えてよい。コストがロスよりも大きいということは、軽減できる損失よりも対策に多くの費用がかかるということで、対策としての意味をなさないからである。
 コスト/ロスモデルは、ある確率予報が与えられたときに、対策をとるか否かを利用者のコスト・ロス比に基づいて判断するものである。この例の場合、「気温が低い」という天候の生起確率がp%という予報に対して対策をとるのがよいか、対策をとらないのがよいかを考える。
 p%という確率予報が100回出され、毎回対策をとったとすると、対策費の合計は「100 × C」になる。一方、p%という確率予報から100回のうちp回だけ実際に気温が低いという天候が出現することが予期されるので、対策をとることによって軽減できる損失の合計は「p × L」となる。従って、毎回対策をとることによって得られる収益Gは

     G =(p × L)-(100 × C)

で与えられる。
 対策をとることが意味をもつのは、Gが正の値になる場合で、負の値になる場合は対策をとればかえって損をすることになる。
 従って、コスト/ロスモデルは次のようになる。

     p / 100 >= C/L :対策をとる
     p / 100 < C/L :対策をとらない

3) 冷害被害の解析例
 水稲の冷害対策を例に、「気温が低い」という天候の生起確率がp%という予報に対して、対策をとるのがよいか、対策をとらないのがよいかを考える。
 p%という確率予報が100回出され、毎回対策をとったとすると、対策費の合計は500万円( = 100 × 5万円)になる。一方、100回のうちp回だけ実際に「気温が低い」(つまり冷害になる可能性がある)という天候が出現することが予期されるので、対策をとることによって軽減できた損失の合計は表3-2の被害額から冷害の種類・地帯毎に「p × 被害額」となる。
 毎回対策をとることによって期待される利益は次のようになる。

     利益 = 「冷害の種類別・地帯別に軽減できた損失の合計」− 500万円

 対策をとることが意味をもつのは利益が正の値になる場合で、負の値になる場合は対策をとればかえって損をすることになる。従って、コスト・ロス比は表3-3のようになる。これは、「気温が低い」という確率予報がこの値以上の場合に対策をとるのが適当であり、この値以下では対策をとることにより損失が生じることを示す。
 このことから、冷害等による被害の大きさ別に対策をとるのがよいか、対策をとらないのがよいかを考えると以下の通りとなる。
被害1:軽微な被害を想定した場合は、太平洋側の地帯4、6、8では季節予報で「気温が低い」確率が30%以上の場合には、深水管理の対策を行うのが適切な選択である。また、太平洋側及び日本海側の津軽地域の地帯1、2、7では、40%以上の場合に対策をとるのが適切と見られる。一方、日本海側(津軽地域を除く)では、対策をとるべき確率は50%以上となる。

被害2:太平洋側及び日本海側の津軽地域では、季節予報で「気温が低い」確率が10〜30%以上の場合に深水管理の対策を行う必要がある。ただし、季節予報においては「気温が低い」の気候的出現率が30%に設定されていることからも、深水管理の対策は太平洋側(日本海側の津軽地域を含む)では基本技術と位置づける必要がある。

被害3:1993年の大冷害を想定した場合は、「気温が低い」確率が10%程度でもほとんどの地域で対策をとらなければならず、深水管理の対策は東北全域で基本技術として位置づける必要がある。

表3-3 冷害危険度地帯区分毎の各被害におけるコスト・ロス比(%)
地帯区分被害1被害2被害3
132258
235246
3514620
430144
5555530
627175
738267
821134

 
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