確率予報の利用法

まとめと課題


    紹介にあたり
  1. はじめに<PDF版>
  2. 水稲と気象<PDF版>
  3. 冷害危険度を考慮した1か月予報の利用法<PDF版>
  4. 3か月平均気温の確率予報を用いた作付品種の栽培管理への利用法<PDF版>
  5. まとめと課題・<PDF版>
5 まとめと課題
 東北地方における確率予報の利用法を考えるにあたり、稲作の生産安定化を図ることを目的として冷害対策に利用できるモデルを2つ作成した。
 1つめのモデルは、主に1か月予報の気温確率を用いて冷害危険度を考慮した深水等水管理のコスト/ロスモデルである。軽微な冷害被害を想定した場合に深水等水管理の対策をとる必要があるのは、太平洋側の地帯4、6、8では、季節予報で気温が「低い」確率が30%の場合、太平洋側の地帯及び日本海側の津軽地域の地帯1、2、7では確率が40%以上の場合、一方、日本海側(津軽地域を除く)では確率が50%以上となる場合である。なお、通常においては深水等水管理の対策は太平洋側(日本海側の津軽地域を含む)での基本技術であるが、1993年等の大冷害が想定されるような場合は、この対策は日本海側も含めた東北全般の基本技術として実施する必要がある。
 同じ気温確率でも地域によって対策の取り方が異なることは、今まで一般的な事実として知られていたが、これが定量的に示された。地域の実情に応じた確率の利用が重要であることを、今後ユーザーに周知していくことが必要である。また、同一地域でもどの位の確率で対策を取るかは、被害の見積もりをどの程度に設定するかで変わってくる。現在の3階級で発表されている確率予報の解説では、こうした点にも留意する必要がある。
 2つめのモデルは、暖候期予報や3か月予報の気温確率を用いて作付品種別による栽培管理への利用モデルである。本来、この種の情報は品種選択に活用されるべきものであるが、暖候期予報が発表される時期には既に作付品種構成を決定しているため、耐冷性の異なる品種の作付圃場決定の最終判断材料とする。また、その後に発表される3か月予報を用いて、適切な栽培管理の意思決定に使用することが出来る。
 なお、コストやロスの見積もりが適当かどうかは、これらのモデルを利用する農家が再度検討する必要がある。また、利用モデルの作成に当たって水稲生産の被害は気温の変動のみでほとんど決まるとしたが、実際には作付品種や農家の生産技術によるところも大きいので注意が必要である。
 今回は、冷害対策に的を絞った形となったが、近年は高温による障害が発生しやすくなってきている。この場合、太平洋側とは逆に日本海側では積極的な対策をとる必要が出てくるものと考えられる。また、気温だけでなく日照時間や病害虫に対する確率予報の利用モデルを作成していく必要性もあるだろう。

謝 辞
 本稿をまとめるにあたり、東北農業試験場総合研究部総合研究第4チームの鳥越洋一チーム長から貴重な助言や資料の提供をいただいた。また、栗原弘一気候・調査課長からも多大な助言をいただいた。ここに感謝の意を表します。

参考文献
 長谷部正(1999)「冷害対応の経済分析」シンポジウム「ヤマセ研究の最前線」予稿集
 根本順吉・朝倉 正(1980)「気候変化・長期予報」(気候と人間シリーズ2)朝倉書店
 竹谷良一(1999)「温量指数からみた東北地方の気候特性」
         平成11年度仙台管区調査研究会資料
 竹谷良一(1999)「宮城県における農作物の作況と気象との関係について」
         平成11年度仙台管区調査研究会資料
 和達清夫(1958)「日本の気候」東京堂

 
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